2017/08/20

「未払い残業代を請求しても手間と時間がかかるだけで大してお金も手に入らない」は本当か?

執筆者 編集部弁護士

最近、「未払い残業代を請求しても手間と時間がかかるだけで大してお金も手に入らない」「未払い残業代を請求するのは時間と労力の無駄なので、諦めて次の仕事に集中した方がいい」といった論調の記事をネット上で見かけることがあります。

しかし、このような記事は、そもそも残業代請求の手続について誤解している、個々の労働者の方の残業時間や基礎賃金によって未払い残業代の金額が大きく変わることを理解していない、弁護士費用の計算方法について誤解しているなど、残業代請求に関する誤解や知識不足が前提となっていることが多いように思います。

そこで、今回は、このような記事が間違いがちな以下の残業代請求のポイントについて、正しい解説をしたいと思います。

未払い残業代の請求にはどれほどの時間と労力がかかるのか
獲得できる未払い残業代はいくらなのか
未払い残業代の請求にかかる費用(弁護士費用)はいくらなのか

1.未払い残業代の請求にはどれほどの時間と労力がかかるのか

1.1 残業代請求の流れ

弁護士に残業代請求を依頼すると、一般的には、①示談交渉、②労働審判、③訴訟(いわゆる裁判)の順番で残業代を請求します
※依頼者の希望や会社の対応により請求方法は変わります。

① 示談交渉

示談交渉では、納得できる金額の残業代を払ってもらえるように、弁護士が会社と交渉します。
弁護士に必要な資料(雇用契約、就業規則、残業時間の証拠など)を渡せば、後は弁護士が残業代を計算して会社と交渉してくれるので依頼者が自分で書面作成等の作業をすることはほとんどありません。
示談交渉にかかる時間は、具体的事情により異なりますが、1か月~2か月程度のことが多いでしょう。
統計はありませんが、示談交渉で残業代を払ってもらえるケースも多数あります
示談交渉で残業代を払ってもらう場合、通常は、お互いに残業代を請求したことを他人に話さないという契約(守秘義務契約)を会社と結びます。

② 労働審判

示談交渉で会社と合意できなかった場合等には、裁判所で労働審判を行います。
労働審判は、話合いと訴訟(いわゆる裁判)の中間のような非公開の手続で、調停(お互いの合意)や裁判所からの審判によって残業代を払ってもらいます。
裁判所の手続なので手間がかかるのではないかと不安になる方もいらっしゃいますが、実際には弁護士が労働審判申立書の作成や必要な証拠の整理・準備を行ってくれるので、依頼者が自分で書面作成等の作業をすることはほとんどありません。
もっとも、労働審判の期日に出席するため1~3回は裁判所に行く可能性があります。
労働審判にかかる時間は、通常は2か月半程度、長くて4か月程度です。
労働審判になった場合のうち8割程度は、労働審判における調停や裁判所の審判に基づき残業代を払ってもらえます

③ 訴訟(いわゆる裁判)

労働審判の結果について労働者か会社のどちらかが同意しない場合等には、裁判所で訴訟(いわゆる裁判)を行います。労働審判と同様に、弁護士が訴状・準備書面の作成や必要な証拠の整理・準備を行ってくれるので、依頼者が自分で書面作成等の作業をすることはほとんどありません。
なお、仮に訴訟になったとしても、ほとんどの場合、本人が裁判所に行くのは1回のみです 。
訴訟にかかる時間は、半年~1年程度となる可能性もあります
訴訟の最後に裁判所が出す判決では、残業代に加えて、最大で残業代と同額の付加金を貰えることがあります
判決が出た場合には、会社はその判決を必ず守らなければなりません。
※会社か労働者が上訴した場合には、高等裁判所での訴訟に移行します。

このように残業代請求は、会社との示談が成立すれば~2か月程度で解決しますし、示談で解決しない場合であっても、ほとんどのケースは労働審判によって3か月程度で解決します
したがって、未払い残業代の請求に1年以上の時間がかかるかのような論調の記事は、残業代請求の手続について訴訟のみを前提としている点で誤りといえるでしょう。

1.2 残業代の請求は弁護士に依頼すれば簡単にできる

残業代請求を弁護士に依頼する場合、手元にある資料を弁護士に渡し、勤務実態について説明するための打ち合わせが1回は必要になることが多いでしょう。
しかし、弁護士に依頼した後は、弁護士が残業代を計算して会社との示談交渉を行うので、依頼者が直接会社と交渉する必要はなく、依頼者が自分で書面作成等の作業をすることもありません。
依頼者がやることは、弁護士からの事実確認の質問に答えたり、会社との合意金額について弁護士と相談したりする程度です。
※雇用契約、就業規則、給与明細、残業時間の証拠などがあると有益ですが、揃っていなくとも問題ありません。

また、仮に、労働審判や訴訟(いわゆる裁判)になってしまった場合でも、依頼者自身が会社と言い争いのようなことを行う必要はありませんし、労働審判、訴訟に必要な書面の作成や証拠の整理・準備は弁護士が行ってくれるので、依頼者が自分で書面作成等の作業をすることはほとんどありません。
裁判所に行く回数も、ほとんどの場合、労働審判で1~3回、訴訟では1回のみです。

このように残業代請求は、弁護士に依頼すれば、依頼者自身に手間がかかることはほとんどなく、依頼した後は弁護士に任せておけば簡単に解決するケースがほとんどです。
したがって、残業代請求に大変な手間と労力がかかるかのような論調の記事は、残業代請求の実務を理解していない点において誤りといえるでしょう。

なお、退職後に残業代を請求した場合は、残業代請求をしたことが周りにばれることは通常はありません。

2.獲得できる未払い残業代はいくらなのか

残業代は、

残業代=残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率

という式で計算します。
(※残業代の計算方法や通常の労働時間制以外の残業代の計算方法の詳細については、別コラム 「意外と知らない!?正しい残業代の計算方法(弁護士執筆)」残業代Q&Aをご参照ください。)

2.1 「残業時間」の数え方

「残業時間」は、「所定労働時間」を超える労働時間です

毎日同じ定時で働いている場合や、定時が日ごとに違ってもシフト制で勤務している場合には、会社との雇用契約や就業規則で、1日あたり何時間働くか(定時など)、1週間あたり何時間働くかという「所定労働時間(しょていろどうじかん)」が決められているはずです。
この所定労働時間を超えて働いた時間が、残業時間となります。

所定労働時間は、会社がどれだけ長く決めてもいいというわけではありません。労働基準法(労基法)により、所定労働時間は、1日8時間、1週間で合計40時間までとすることが決まっています(通常の労働時間制の場合)。この1日8時間、1週間で合計40時間の労働時間を「法定労働時間(ほうていろうどうじかん)」といいます。
法定労働時間より長い所定労働時間が就業規則などで決まっているとしても、労基法によって無効となります。そしてこの場合、1日8時間、1週間で合計40時間の法定労働時間を超えて働いた部分が、全て残業時間となります。

2.2 「1時間あたりの基礎賃金」の計算方法

「1時間あたりの基礎賃金」は、残業1時間につき、基本的に何円もらえるかといういわば「時給」のようなものです。
1時間あたりの基礎賃金は、普段の給料の額を、1時間あたりに割って、計算します。

例えば、月給制の場合は、月の基礎賃金の額を、就業規則などで決まっている1か月間の労働時間(所定労働時間)で割って計算します

2.3 割増率とは

割増率(わりましりつ)は、法定労働時間(1日8時間、1週間で合計40時間)を超えた残業かどうか、深夜(午後10時から午前5時まで)の残業かどうか、法定休日の残業かどうかによって、異なる率が定められています。

具体的には、以下のように定められています。
法定労働時間(1日8時間、1週間で合計40時間)を超える残業:割増率1.25倍
法定休日の残業:割増率1.35倍
法定休日以外の休日の残業:割増率1.25倍
※深夜(午後10時から午前5時まで)の残業の場合、上記に割増率0.25倍を加算

2.4 具体例

それでは、実際にどれくらいの残業代がもらえるのか、具体的な事例を設定して計算してみましょう。

例えば、月給32万8000円、就業規則上の所定労働時間が午前9時から午後6時(休憩1時間)、土日祝日と年末年始(12月29日から1月3日まで)が休みのAさんが、月曜から金曜まで毎日2.5時間ずつ残業している場合の残業代を計算してみます。

まず、Aさんの2017年の1年間の勤務日数は246日ですから、Aさんの残業時間は年間で615時間になります。

また、Aさんの1年間の所定労働時間は、8時間×246日=1968時間となり、1か月の所定労働時間は、1968時間÷12か月=164時間となります。

Aさんの1時間あたりの基礎賃金は、32万8000円÷164時間=2000円となります。

Aさんの残業の割増率は1.25倍なので、Aさんの1年間の残業代は、615時間×2000円×1.25倍=153万7500円となります。

残業代は過去2年分を請求できるため、Aさんは、2年分で300万円以上の残業代を請求できることになります。

これはAさんの月給の約9~10か月分に相当する金額であり、非常に大きな金額であるといえるでしょう。

3.未払い残業代の請求にかかる費用(弁護士費用)はいくらなのか

 
弁護士に払う料金は、通常は、主に、①相談料、②着手金、③報酬金の3類です。

①相談料は、法律相談をした際に払う料金で、30分や1時間単位での料金になります。

(その弁護士に、実際に仕事を頼んだ後は、通常は、その仕事に関する相談には料金はかかりません。)

昔の日弁連の基準では、30分:5000円~2万5000円と決められていましたが、今は弁護士ごとに異なり、1回目の法律相談は無料にしている弁護士もいます

②着手金は、弁護士に仕事を頼む時点で払う料金で、初期費用のようなものになります。

昔の日弁連の基準では、例えば、請求額が300万円以下なら請求額の8%(ただし、最低でも10万円)と決められていましたが、今は弁護士毎に異なり、残業代請求では着手金を無料にしている弁護士もいます

③報酬金は、依頼が終了した後に支払う料金で、成功報酬のみの場合もあれば、「決まった金額+成功報酬」の場合もあります。

昔の日弁連の基準では、例えば、弁護士の仕事により獲得した経済的利益の金額が300万円以下なら、その金額の16%と決められていましたが、今は弁護士毎に異なります。

なお、上記①~③の他に、依頼された仕事(案件)のために使った実費(郵便費や裁判所に支払う費用など)も依頼者の負担となるのが一般的です。

例えば、Aさんが、弁護士に300万円の残業代の請求を依頼し、会社との示談によって270万円の残業代を獲得した場合、昔の日弁連の基準を適用すれば、着手金は300万円×8%=24万円、報酬金は270万円×16%=43万2000円となります。
そうだとすると、270万円の未払い残業代を獲得するための弁護士費用は、67万2000円で獲得した残業代の25%以下ということになり、Aさんは弁護士費用を差し引いても200万円以上のお金を獲得できることになります。

未払い残業代がいくらになるか、弁護士費用がいくらになるかは個々の事情に応じて変わりますが、多くの事案では、弁護士費用は獲得した残業代の25%前後に収まるので、一般論として弁護士費用を支払えば大してお金が残らないと断じるのは誤りといえるでしょう。

4.結論

以上で検討したとおり、未払い残業代を請求しても手間と時間がかかるだけで大してお金が手に入らないかのような論調の記事は、①ほとんどの残業代請求が示談交渉や労働審判によって1~3か月程度で終了し、弁護士に依頼すれば依頼者自身に手間がかかることはほとんどないことを理解していないこと、②残業代は割増率(1.25倍以上)により、思っているよりも大きな金額になることを理解していないこと(例えば、毎日2.5時間、月50時間の残業をしていれば、300万円以上の残業代が発生している可能性があります。)、③多くの事案では、弁護士費用は、獲得した残業代の25%前後に収まるため、獲得した残業代の75%程度は依頼者の手元に入ることを理解していないことから、誤りといえるでしょう。
残業代請求に関しては、これらの点以外にも、不正確な内容の記事による誤解が広まっているように思われます。会社による虚偽の説明や誤った記事に惑わされないようにするため、従業員の皆さんが正しい知識を身に着けることが一番重要でしょう。

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