2018/02/09

「過労死基準」って何?残業時間の長さが原因で病気になったら補償(労災認定)を受けられるのか?(弁護士が執筆)

執筆者 編集部弁護士

最近、過労死や過労自殺(過労自死)について多数の報道がされています。
これらの報道を見て、自分や家族が過労で病気になった場合に補償は受けられるのか心配になったり、いわゆる「過労死基準」(過労死ライン)とは何なのか疑問に思ったりした方も多いかと思います。
そこで、過労に対する補償や「過労死基準」(労災認定基準)についてまとめました。

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1.そもそも「過労死」、「過労自殺」とは?どうして起きてしまうのか?

「過労死」とは、業務による過労、ストレスが原因で死亡することをいいます。
具体的には、過重な労働、特に長時間労働を原因として、脳・心臓疾患(脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症、心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤)が引き起こされ、死に至るものです。

「過労自殺」とは、勤労者が長時間労働や仕事上の過度のストレスから心身の不調を来たし、自殺することをいいます。
過重な労働の結果、うつ病等の精神疾患を発病したことが原因となって、自殺という結果に至ってしまうものです。

仕事の最も重要な目的が、生活のためのお金を得ることにあるのか、達成感等を得ることにあるのかは人によるとしても、
仕事は、良い人生を送るために行うものですから、仕事が人生そのものを奪う過労死や過労自殺が多く起きるような状況は一刻も早く変えなければなりません。

株式会社日本リーガルネットワーク(以下「弊社」)では、このような悲劇を生み出す大きな原因が、「サービス残業問題」にあると考えています。サービス残業が黙認されると、ブラック企業の経営者は長時間の残業を従業員に強要しても残業代を払わなくていいことになり、長時間残業に対する歯止めがなくなります。

弊社では、社会からサービス残業をなくすためには、①従業員の方が手元に残業の証拠を残せること、②従業員の方が残業代を貰う権利があるかがわかること、③残業代請求を増やして「未払い残業代を請求するのは当然」という社会的気運を作ることが重要だと考え、アプリ「残業証拠レコーダー」、本ウェブサイト、「残業代・解雇弁護士サーチ」を運営しております。

 

2.過労で病気になった場合の補償

長時間労働の結果、万が一、過労で病気になってしまった場合の補償には、主に2種類あります。

A.労災保険による補償

会社や個人事業主に雇われて働いている方は、法律によって、必ず国が運営する労災保険の対象になっています。これは、非正規社員の方やパート・アルバイトの方も同じです。
そして、仕事や通勤が原因になって、病気になったり怪我をしたりした場合には労災保険から一定の補償を受けることができます。

そのため、過重な労働によって、身体やメンタルの病気になった場合、労基署に申請して「労災」と認められれば、労災保険から補償を受けることができます。(労災と認められるかどうかの基準については、をご覧ください)
具体的には、下記の補償を受けることができます。

①治療費
②病気により休業した場合、給料の8割の補償(ただし、休業4日目から)
③治療を開始してから1年6か月がたっても治療が終わらず、その病気が法律上の基準に当てはまる場合、年金(定期的に支給される補償)と一時金
④後遺症(後遺障害)が残ってしまった場合、後遺症の重さに応じた年金や一時金
⑤病気や後遺症により介護が必要な場合、介護費用(上限あり)
⑤病気により亡くなった場合、遺族に対する年金や一時金と葬祭料

B.勤務先からの損害賠償

過重な労働によって、身体やメンタルの病気になった場合(特にAで労災と認められた場合)には、勤務先からも損害の賠償を受けられる場合が多いです。
なぜなら、会社等(使用者)は、業務によって従業員が心身の病気にならないように注意する義務を負っているからです。

この勤務先からの損害賠償を受けることで、A.労災保険により国から補償を受けている場合でも、それで補えない分を支払ってもらうことができます

サービス残業をしている方の場合

過労で病気になるほどの長時間労働をしている方の中には、長時間のサービス残業をしている場合も多いかと思います。
そのような場合には、残業時間の証拠さえあれば、会社に対して未払い残業代を請求することも可能です。(残業代を支払うかどうかは会社が決められることではなく、労働基準法で決められた会社の義務です。)

なお、残業代がもらえない例外的ケースに当たるかどうかについては、こちらの記事をご覧ください。

弁護士への相談がおすすめです。

A.労基署への労災申請について、自分ひとりで行うのは難しい場合も多いかと思います。
また、B.勤務先への損害賠償請求や未払い残業代についても、一般の方が的確に証拠を整理して法的主張を行い、適切な金額を取得するのは難しいのが実情です。
このような場合には、法律の専門家である弁護士に相談・依頼を行うのがおすすめです。
解雇・残業代弁護士サーチでは、労働事件を取り扱っている弁護士を見つけることができますので、ぜひご利用ください。

 

3.労災認定基準(「過労死基準」)について

過労によって身体的な病気(主に脳・心臓疾患)やメンタルの病気になった場合に、労災保険から補償が受けられるかどうかについては、厚生労働省が基準(労災認定基準)を定めています

この基準は、過労によって病気になり、過労死・過労自殺といった最悪の結果を招いてしまった場合に、遺族が労災保険から補償を受けられるかどうかの基準でもあることから、過労死基準」と呼ばれることがあります。
このうち、特に後記の残業時間に関する基準を「過労死ライン」と呼ぶことが多いようです。
このように、過労死基準(過労死ライン)とは、「この基準を超えると病気になったり、過労死したりする」という医学的な基準ではありませんが、厚生労働省が「この基準を超えて働くと、仕事が原因で病気になったり、最悪の場合、過労死や過労自殺につながってもおかしくない」と考えている基準であるといえます。
そのため、自分の働き方がこの基準を超えている場合には、身体やメンタルに不調がないか気を付けたり、職場や働き方を変える必要がないか検討したりした方が良いかもしれません

過労によって病気になった際に労災保険から補償が受けられるかの基準(労災認定基準)は、身体的な病気(主に、脳・心臓疾患)とメンタルの病気(精神疾患)で異なるので、分けて説明します。

A 過労によって身体的な病気になった場合

過労によって身体的な病気、特に脳・心臓疾患になってしまった場合には、下記の⑴~⑶のどれかに当てはまる場合には、労災保険から補償を受けることができます。
(「脳・心臓疾患」とは、脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症、心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤を指します。)

⑴ 発症の直前や前日に、病気の原因となった、極度の緊張等の強度の精神的負荷や緊急・強度の身体的負荷を強いる突発的な異常事態に遭遇したこと

⑵ 発症の前日~1週間程度前に、特に過重な業務を行ったこと
具体的には、長時間の労働、不規則な勤務、深夜勤務、過酷な作業環境での業務、精神的緊張を伴う業務等であって、同僚等にとっても特に過重な業務であると客観的・総合的に認められることが必要です。

⑶ 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務を行ったこと
「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」であるかの判断においては、直近6か月の残業時間(労働時間)が下記の①や②に当てはまるかが重要な判断材料となります。
※ 労働時間の長さだけでなく、上記⑵で説明したような業務の性質も判断対象になります。
① 発症前1か月間の残業時間(法外残業時間)が概ね100時間を超えること
② 発症前2か月間~6か月間のいずれかの平均残業時間(法外残業時間)が1か月あたり概ね80時間を超えること(=発症前2か月間の平均残業時間、3か月間の平均残業時間、4か月間の平均残業時間、5か月間の平均残業時間、6か月間の平均残業時間のどれかが、80時間以上であること)
※ 法外残業時間=1週間当たり40時間を超えて労働した時間。法外残業については、こちらの記事をご参照ください。
※ ①や②に当てはまらなくても、発症前1か月~6か月の法外残業時間が45時間を超える場合には、上記⑵で説明したような業務の性質を踏まえて、「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」であると判断される場合もあります。

B 過労によってメンタルの病気になった場合

過労によってメンタルの病気になった場合には、下記の⑴~⑶のすべてに当てはまる場合には、労災保険から補償を受けることができます。

⑴ うつ病や重度ストレス反応等の精神的な病気を発病していること

⑵ 業務(仕事)以外の原因で精神的な病気になったとは認められないこと

⑶ 発病前の6か月間に、業務による強い心理的負荷があったこと
強い心理的負荷があったかについては、その方がどう感じたかではなく、同じ立場の一般の方がどう感じるかを基準に判断され、「業務による心理的負荷評価表」が指標として使われています。
労働時間については、下記の①~③のどれかにあてはまる場合には、基本的に「強い心理的負荷があった」と認められます。
① 発症前1か月間の残業時間(法外残業時間)が概ね160時間以上であること
② 発症前2か月間の残業時間(法外残業時間)が1か月あたり概ね120時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったこと
③ 発症前3か月間の残業時間(法外残業時間)が1か月あたり概ね100時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったこと
※ 法外残業時間=1週間当たり40時間を超えて労働した時間。法外残業については、こちらの記事をご参照ください。

 

4.過労による労災についての実態・統計

過労によって身体的な病気(脳・心臓疾患)やメンタルの病気(精神疾患)を発病して、労災保険から補償を受けた方の数については、厚生労働省が統計を公表しています。

過労によって病気になっても労災を申請していない方もいると予想されるため、この統計が過労によって病気になったすべての方の状況を表すわけではありませんが、過労による病気の実態を知る参考になると考えられるため、まとめました。
(特に言及がない限り、平成28年度の統計を基に説明しています。)

A 身体的な病気:脳・心臓疾患

脳・心臓疾患についての労災申請は平成28年は825件、そのうち労災認定がされ補償が下りたのは年260件、認定率は38%でした。10年前と比較すると、労災申請も労災認定も100件程度少なくなっています。
脳・心臓疾患の結果、過労死という最悪の結果に至ってしまい、労災申請をした方は平成28年に261件、そのうち労災認定がされ補償が下りたのは年107件、認定率は42%でした。10年前と比較すると、労災申請も労災認定も50件程度少なくなっています。

労災認定がなされた方の年代では、40代や50代が多いようです。
労災認定を受けた方は、正社員の方がほとんどでした。
業種で見ると、運輸業の労災認定が最も多く、次いで製造業、卸売業・小売業で労災認定が多いようです。

B メンタルの病気(精神疾患)

精神疾患についての労災申請は平成28年は1586件、そのうち労災認定がされ補償が下りたのは年498件、認定率は37%でした。10年前と比較すると、労災申請も労災認定も2倍程度に増加しています。
精神疾患の結果、過労自殺という最悪の結果に至ってしまい、労災申請をした方は平成28年に198件、そのうち労災認定がされ補償が下りたのは年84件、認定率は48%でした。10年前と比較すると、労災申請も労災認定も20件程度増加しています。
この統計からは、過労によるメンタルの病気は増えているといえるかもしれません。

労災認定がなされた方の年代では、30代から40代が最も多く、次いで20代が多いようです。
労災認定を受けた方は、正社員の方がほとんどでしたが、1割程度は契約社員・派遣社員・パート・アルバイトの方でした。
業種で見ると、製造業や医療・福祉業で労災認定が多いようです。

 

最後に

長時間の残業が重なり、身体やメンタルに不調を感じていて、過労死や過労自殺を心配するまでになっている場合は、早期の転職を検討することをおすすめします。

不幸にも過労によって病気になってしまい労災申請をしようと考えている場合や、未払い残業代を請求しようと考えている場合には、法律の専門家である弁護士に相談・依頼を行うのがおすすめです。
解雇・残業代弁護士サーチでは、労働事件を取り扱っている弁護士を見つけることができますので、ぜひご利用ください。

また、過労によって病気になるほどではないが、相当のサービス残業をしているという方には、自動で残業の証拠が残せるスマホアプリ「残業証拠レコーダー」(「残レコ」)がおすすめです。
将来、転職や退職をする際に、残レコの証拠で残業代を払ってもらいましょう。

 

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